子供の語彙力は、単なる知識量ではありません。他者と心を通わせるための「橋」のようなものです。特に読書は、過去の偉人や遠く離れた場所に住む人々の考えに触れる貴重な体験です。たとえば、ナイチンゲールの手記を読めば、看護の原点にある「人を思う気持ち」に触れることができます。これは、親密圏――家族や友人との関係――を超えて、公共圏での対話を可能にする力です。
語彙が豊かであれば、抽象的な感情や複雑な状況も言葉にできます。「なんか嫌だった」ではなく、「相手の言葉が自分の努力を否定されたように感じた」と言える子は、他者に理解されやすくなります。これは、学校生活だけでなく、社会に出てからも大切な力です。
語彙は、体験と結びついて育ちます。親子の会話、旅先での出来事、読書の中で出会った言葉――それらが積み重なって、子供の中に「自分の言葉」が育っていきます。だからこそ、親が子供の言葉に耳を傾け、言葉で返すことが大切です。子供が「虫がいた!」と言ったとき、「どんな虫だった?」「どこにいたの?」と返すだけで、語彙の世界は広がります。
言葉は、体験の記録であり、他者との対話の道具です。読書はその両方を兼ね備えた、最も手軽で深い学びの場です。語彙を育てることは、子供が世界とつながる力を育てることなのです。
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